ティンバック2

手荷物が少ない人のことを、格好いいと思う。しかしあのスタイルは、都心に住んでいたり、必要な物はそのときにコンビニなんかで躊躇なく買えばいいという、金銭的に余裕があったりあるいは浪費癖のある人でないと無理だと思う。
東京郊外に住んでいた四年ほど前、「ティンバック2」のXLサイズを買った。メッセンジャーバッグという種類の、自転車便の人たちが背負うバッグだ。サイクリング好きな一般人や、自転車に乗らない人も街中で使っている。バリスティックナイロンという、軍用にも用いられる、通常のナイロンの五倍の強度を誇る素材だから頑丈で、XLサイズだと、中身が空でも重量が二キロ弱ある。
そのぶん、中に沢山の荷物が入り、重い物を入れても破れる気配がない。当時住んでいたマンションは最寄り駅から徒歩一〇分の場所にあった。食料品の買い出し等ちょっとした用事をこなす際、いつも自転車で移動した。ママチャリではなく、マウンテンバイクやロードレーサーといった前カゴなしのスポーツタイプだったから、買った食料品などは自分で背負うしかなかった。自炊をしており、スーパーで冷凍鳥胸肉を、八百屋で野菜を買い、ディスカウントストアで加工食品を買っていた。ティンバックの中に米一〇キロと牛乳一パックを入れ背負い、手提げ袋を自転車のハンドル両端にかけマンションに戻ったりした。
他の用事でも使った。とにかく荷物の出し入れが楽で、ストラップを調節すれば急な大荷物にも対応できたから、国内旅行の荷物はそれ一つに詰めて行ったし、仕事の打ち合わせ、芥川賞受賞の記者会見が行われた帝国ホテルにも。
本が売れてある程度金が入ってきてからも、高いバッグには目もくれず、使い続けている。たとえばテレビの仕事等で、他の出演者の方々は芸能事務所に入っているから衣装やその他小道具等を、マネージャーやスタイリストの方々が持っていたりする。しかし自分は身一つで各仕事場をまわっているので荷物が多くなる。荷物が少ない日でも、楽屋に用意された弁当二~三個のうち、食べ残しの一~二個を持って帰ったりする日もあるから、どうしても大きなバッグが必要となる。ティンバック2には、崎陽軒や今半の弁当が平置きできる。その様を見た気心知れた共演者から、「お金あるんだから、ちゃんとした食事をして、ちゃんとしたお洒落なバッグ買いなよ」と言われたこともある。
たまに調子に乗って、中華弁当などを持ち帰ると、惣菜の汁がティンバッグの底部に漏れ出て散っていることも。しかし防水性が高いから、風呂ついでにシャワーで流せば、翌日には乾いて使える状態に戻る。

初出:「DIME」小学館 2016年

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