BOSEワイヤレスヘッドフォン QuietComfort35、QuietControl30

テクノロジーの進歩というのも考えものだ。便利なものに慣れてしまうと、便利じゃないものに後戻りすることはかなり難しくなる。たとえば合計数十万円するオーディオ設備が家にあるが、最近は音楽をiPadPROでばかり訊いている。四チャンネルのスピーカーがかなり良い。もちろん低音なんかはスカスカだし、細かい音像はちゃんとアンプを通した音のほうが良いのだが、音楽を知覚する脳は、ある程度のところであら探しすることをやめる。中腰になってアンプの電源とプレイヤーの電源をオンにし、などという手間がかかるのなら、手元にあるiPadPROのタッチ操作で音楽を鳴らしてしまうことのほうが楽だ。
電車内での時間のつぶし方にも、同じことがいえる。埼玉の自宅から東京の私立中学へ通う電車内で、時間つぶしのために仕方なく小説を読んでいた、というのが自分が小説好きになったきっかけだが、実のところもう五年以上前から、電車内で本を読まなくなった。本は自宅で沢山読んでいるので、車内で読み目を疲れさせるのは止めようと思ったからだ。なんとなく目をつぶったり、イヤフォンで音楽を聴いたりするようになったが、ここ二、三年でそれもなくなった。
スマートフォンを手に入れてから、メールなどの視覚的情報のチェックで時間をつぶせるようになった。アプリのゲームで遊んだりネットニュースなど見たりもしないが、経済指標などをチェックしていると、数十分など過ごせてしまう。イヤフォンジャックにイヤフォンをさしこみ音楽を聴くのが、面倒になり、聴かなくなった。それに電車内ではノイズもひどく聞き取れない。ノイズキャンセリング機能のついた高いヘッドフォンもあるらしいが、断線すれば一発で駄目になるし、コードを気にするのが億劫だ。
そんな時に、ノイズキャンセリング機能のついたワイヤレスヘッドフォンの存在を知った。はじめは、ソニーのMDR―1000Xを買おうとしていた。いくつか試した中で音質が最も良かったからだ。しかし、ブラックとシャンパンゴールドのカラー展開が気になった。黒は印象として重すぎる。シャンパンゴールドは、シルバーだった物が経年劣化で黄ばんだみたいにも見える。いっぽう、ほとんど性能の変わらないBOSEのQuietComfort35は、ブラックとシルバーがあり、シルバーのデザイン性が素晴らしい。新幹線のグリーン車やANAのプレミアムクラスに乗っているイメージが連想される。デザイン重視で買ってみたが、それ以来、移動の際に使い倒している。特に新幹線のグリーン車内において、iPadPROで映画を見る際なんかに使い、贅沢な気分に浸っている。たまにうるさい普通席に乗るときもあるが、人々の話し声を遮断し、自分だけの空間を作ってくれる。
ただ、都内の電車移動など、短距離を移動するためだけに、ケースから出して使用し、またケースにしまい下車、という用途だと少し面倒くさい。それに暑くなってくると、肉厚なパッドで耳に汗をかく。というわけで数日前、ワイヤレスイヤフォンのQuietControl30を新たに購入した。これだと鞄の中から取り出して使うのも楽だし、暑くもならない。散歩やジョギングといった運動の最中にも使えるだろう。ワイヤレスに慣れてしまった今、もう本当に有線には戻れないと思う。

初出:「DIME」小学館 2017年

Follow me!