ザ・ノースフェイス マウンテンエアーフーディ

あまり洋服に興味がない。人生の中で着飾ることを意識していたのは、せいぜい二〇歳前後の数年間だろうか。あの頃はスペイン製のストレッチホワイトパンツなどという数万円もする服を買ったりしていた。着飾ればモテると思っていたからだが、基本的に、着ている洋服よりも、顔に贅肉がついていないだとか、着せ替え不可能な要素のほうが大事だと思っている。芥川賞を受賞する直前なんか、もし受賞した時のためにと本当に久しぶりに色々な服を新調したが、いざ受賞して忙しくなり顔が知られるようになると、メディアでの露出が増えるごとに、外見などどうでも良くなった。人は他人のことをそれほど見ていない、ということを知ったからだ。
昔は人前で見栄えするような細い服をやたらと買っていたが、余所でこなす仕事が増えるにつれ、身体をしめつけない服を仕事でも着るようになった。たとえば地方出張に行く際、僕にマネージャーなどついていないから、荷物は全部自分で持っていく。移動用の服と現地での衣装と分けると荷物が増えるため、なるべく、移動時にも楽に着られる衣装で現地へ行くようになった。
プライベートでは、ここ数年間ユニクロの安い服しか着ていない。人目を気にしなくても良い、身体を締めつけない普段使いの服に関しては、値段と機能のバランスが良いからだ。中でも、数年前に買った、ナイロン素材のジャージのようなパーカーを、二〇一〇年からずっと着続けていた。春や秋のちょっと冷える日や、日焼け防止のため着たほうがいいだろうというような夏の日にも。千数百円で買ったそれはとにかく丈夫で、黒字にピンクのラインというデザインは気に入らなかったものの、ずっと使い続けていた。しかしいい加減に買い換えなければならないだろうと、昨年末、思い切って捨てた。そして今年の梅雨入り前に、新しいパーカーを買わなければならないことに気づいた。
アディダスやナイキのスポーツウェアから探し始めたが、機能とデザインが両方自分にマッチするものがなかった。なんにでもあわせやすいように、カラーはグレーで探していた。黒だと重すぎる。機能的に黒でいい物はあるが、グレーがなかなかない。アディダスのランニング用の物は良かったが、青色限定というのがネックだった。
アウトドア用品店で色々な物を試着した結果、ノースフェイスのマウンテンエアーフーディの二〇一七年春夏新作が最も自分の用途にあっていた。まず、ものすごく軽い。そして汗かきの自分が夏にUVカット目的で着るときなんかも、ある程度の涼しさを確保してくれる生地だ。縫い目を少なくする工夫がなされているから、半袖Tシャツの上に着てもチクチクしない。タウンユースでも安っぽく見えないシルエットもいい。二万円弱するが、それだけの価値はある。自転車に乗るのも新幹線や飛行機に乗るのもテレビ局やスーパーへ行くのも、これ一着で事足りる。原色カラーだったりするアウトドア用の服を街で着ることに抵抗のある人は多いだろうが、地味なカラーを選べば、日々を本当に快適に過ごせるからおすすめだ。

初出:「DIME」小学館 2017年

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